自身で肉の熟成から手掛けるなど、とことんこだわったハンバーガー・サンドイッチを提供する人気店「Burger Occi」。料理への探求心や、お客さんとの向き合い方について、オーナーの山口弘シェフに聞きました。
「Burger Occi」は、五反田で人気のビストロ「Burger & Bistro Occi」の姉妹店として2024年6月にオープン。熟成肉を使ったハンバーガー・サンドイッチの専門店として人気を博し、自家製のパンとコンビーフを使った看板メニュー「ルーベンサンド」はたっぷりの肉を挟んだインパクトのある見た目で話題を集めています。今注目される同店の、メニュー開発やお店づくりについて、オーナーシェフの山口さんに伺いました。
- 山口弘さん
g3 food(株)代表取締役。1981年生まれ、大阪府枚方市出身。中学卒業後、美容学校と通信制高校に通い、計8年美容師としてキャリアを積む。その後、洋食居酒屋のアルバイトを機に料理畑に進み、イタリアン、鉄板焼き、ビストロ、すし店、フレンチなど幅広いジャンルで修業。2020年五反田にビストロ「kitchen g3」を(現在は「Burger & Bistro Occi」に変更)、2024年6月には麻布十番で「Burger Occi」を開業。
「掴んで食べるコース料理」としてのハンバーガーとサンドイッチ
――「Burger Occi」 は、五反田の「Burger & Bistro Occi」に続く2店舗目ですが、開業の経緯を教えてください。
山口弘さん(以下、山口さん):創業店となる五反田のビストロ「kitchen g3」(現在の「Burger & Bistro Occi」)で、2023年夏ごろからハンバーガーの提供を始めたことです。お客さんからの評判がよく、手応えを感じました。
――フレンチやイタリアンのキャリアが長い山口さんが、なぜ「ハンバーガーに挑戦してみよう」と思ったのでしょうか?
山口さん:東京の麻布と日本橋に「東京アメリカンクラブ(Tokyo American Club)」という会員制の施設があって、そこで食べたクラシックなハンバーガーがすごくおいしくて、刺激を受けたからです。ハンバーガーやサンドイッチって、パンとメインディッシュ、ソースと、一皿にさまざまな料理の要素が詰まっている「掴んで食べられるコース料理」なんですよね。そう考えると、コース料理を作り続けてきた自分なら挑戦のしがいがあるなと。
――掴んで食べられるコース料理とは山口さんらしい表現ですね。一方でハンバーガーやサンドイッチの専門店となると、レストランとはまた違ったメニュー構成になりそうですが、人気メニューや売れ筋はなんでしょうか?
山口さん:ハンバーガーの一番人気は、やはり「ザ・バーガー」(1,480円)ですね。熟成させたブラックアンガス牛の肉で作るパティと、茨城県の山西牧場が飼育するブランド豚「三右衛門(さんえもん)」のプルドポークを組み合わせた一品です。熟成ビーフの濃厚な旨みや甘み、そしてパティに絡みつく豚肉の食感の両方が楽しめます。
同じく人気商品の「プレミアム和牛スマッシュ」(2,980円)は、黒毛和牛を使ったハンバーガーです。パティは高温の鉄板に押しつぶす「スマッシュ」という調理法で焼き上げていて、外側はカリッと、中はジューシーに仕上げています。パティの肉は二度挽きにしているので、粗挽きで肉の食感がしっかり残った「ザ・バーガー」と異なり、和牛ならではの繊細な味わいを楽しんでいただけると思います。
サンドイッチの人気メニューは、ブラックアンガス牛の熟成バラ肉を使った「ルーベンサンド」(1,980円)ですね。ニューヨークの名物で、ライ麦パンにコンビーフやザワークラウト、ロシアンドレッシングを挟んでグリルしたホットサンドです。
――日本ではまだあまり見かけないサンドイッチですよね?
山口さん:そうですね。ある時、友人が「肉料理が得意なんだし、やってみたら?」って提案してくれたので、YouTubeに投稿されているレシピ動画を参考に作ったんです。僕自身はニューヨークに行ったことはないんですが、外国人のお客さんには「有名店の味にすごく近いよ」とよく言われます。「YouTubeを見ながら作ったんです」っていうと驚かれますが(笑)。
ルーベンサンドの他にも、三右衛門を使ったジャンボンブランやテリーヌなど自家製シャルキュトリーのサンドイッチもそろえています。
美容師から料理人へ異業種転身、2店舗を運営するまで
――ここからは山口さんのキャリアについてお伺いします。もともと美容師をされていたそうですが、料理人に転身された経緯を教えてください。
山口さん:幼い頃から料理が好きで、中学卒業後は調理師学校に行きたいと思っていたんです。が、両親に「16歳で将来を決めるのはまだ早い」と反対されて。それでも、やりたいことだけを学びたい想いが強く、通信制高校と、当時興味のあった美容学校に通うようになりました。
卒業後は美容師として働き、23歳の頃には同僚と独立する予定だったんですが、話が流れてしまいまして。今後のことを考えるいい機会だと思って、元々好きだった料理を学ぶために、洋風居酒屋でアルバイトを始めました。
そのお店のオーナーシェフが、フレンチやイタリアンを30年以上経験してきたすごい方で、お客さんとしてお店を訪ねて来る元部下もレストランのシェフをしている方ばかりだったんですよね。これは料理を学ぶチャンスだと、およそ2年にわたり調理の基礎から指導していただきました。
――その後、山口さんはどのようなお店で経験を積まれたんでしょうか。
山口さん:その後はイタリア料理店で3年半ほど勤めましたが、シェフになるにはお店のポジションが空かないとダメなんですよね。もっと多くのチャンスがあるところでチャレンジしたいと、何のツテもありませんでしたが29歳で大阪から上京しました。
飛び込みで雇ってくれた精肉店からスタートして、個人経営の鉄板焼き店とビストロで6年ほど勤め、料理長も経験しました。
その後独立したんですが、まずは料理人としての箔をつけたかったことや、店舗を借りるお金もなかったため、銀座のシェア型キッチン「re:Dine(リダイン)銀座」に出店しました。
――「re:Dine」では圧倒的人気だったと伺いました。300万円分売れた食事券のうち、200万円が山口さんのお店に使われていたと。
山口さん:施設内での売上は1位でしたね。私を含めどのシェフも独立したてだったのですが、僕は前職時代のお客さんが、僕個人のTwitter(現・X)アカウントをフォローしてくださっていたんです。フォロワーとして3,000人ほどいて、皆さんに周知すると「なんだか面白そう」と食事券を買ってくださったことが大きかったと思います。
――その後、すぐに実店舗を構えたわけではないんですよね。
山口さん:魚介の扱い方ももっと勉強したかったし、フランス料理も学びたかったんです。なので、1週間のうち5日間は、昼にすし店で魚をおろすアルバイト、夜は三軒茶屋で自分のビストロを間借りで営業。残りの2日はフランス料理店で働いていました。
「再現性を高めるためにデータをまとめる」前職の経験を料理に生かす山口さんの仕事術
――美容師時代の経験が、料理人の今に生かされているなと感じることはありますか?
山口さん:髪のカラーやパーマって、薬剤の配合や放置時間、加熱など、細かな施術条件で仕上がりに違いが出るんです。美容師時代、ある先輩に「たまたまいい色になった、いいカールが出た、ではダメ。狙って出た結果でなければ実力じゃない」と言われたんですね。
だからこそ、再現性を高めるために、きちんと記録したりデータをまとめたりという習慣が身に付きました。例えば、肉の熟成具合を毎回狙い通りにするために、かけた時間や加えた水分をこまめに記録するなど。食材や料理に向き合う上でも、この習慣が大いに生かされていると思います。
また、今も昔も大事にしていることは、「結果が同じなら、仕上がりが早い方がいい」ということです。だらだら仕事せず、サッと終わらせて空き時間に好きなことをすればいいんじゃないかとよく言われていたので、これも普段から意識していますね。
――なるほど……。美容師も料理人も、お客さんと接する職業という共通点がありますが、接客の面で生かされていることはありますか?
山口さん:美容師は初対面のお客さまでも、すぐそばに近づかないと仕事ができないんですよね。当時はまだ男性美容師が少なかったこともあり、緊張されるお客さんも多かったので、どうすれば警戒されないかと考えていました。
例えば、最初は鏡の端にちょっとだけ写るようにして、少しずつ存在感を伝えてから近づいたり、心理学の本に「心臓より遠い方から回り込んで話すと警戒されにくい」と書いてあれば実践したりしていました。こうしたコミュニケーションの取り方は、お客さんにはもちろん、スタッフに仕事を教える時などにも役立っているかなと思います。
「お客さん全員が写真を撮ってSNSにシェアする」と思って作る
――「Burger Occi」の商品はどれもインパクトがあるので、SNSで投稿されることも多いのではないかと思います。クチコミや、投稿が増えるように工夫されていることはありますか?
山口さん:「料理もドリンクも、お客さん全員が写真を撮ってSNSにシェアすると思って作って」とスタッフに伝えています。そのくらいの気構えというか、緊張感を持ってほしいなって。
両隣の席の人の料理はキレイに盛り付けられているのに、自分の料理の盛り付けがイマイチだったらがっかりしますよね。私たちスタッフにとっては100個作るうちの1個かもしれないけれど、お客さんにとってはその料理が唯一ですから。
また、ハンバーガー店はお客さんとの接客ポイントが少ないので、料理に関する想いをメニューにつづってお客さんへ伝えるようにしました。
――その他に接客に関して、スタッフさんと共有されていることはありますか?
山口さん:きっちりした接客マニュアルを作っているわけではないですが、「お客さんに聞かれておすすめする分にはいいけれど、自分から『これおすすめです』とは言わないように」とは伝えています。
お客さんとしては他の料理が気になっていても、スタッフにそう言われたら他のメニューが注文しにくくなってしまうじゃないですか。
それから、これは接客に関してではないですが、自分のスケジュールはできるだけスタッフに公開しています。「打ち合わせ」と予定が入っていれば、僕が店にいない時も一緒に仕事している感が出ますから。それに、決してサボっているわけじゃないぞとアピールする意味も込めて(笑)。
――確かに(笑)。最後に、山口さんの今後の展望を聞かせてください。
山口さん:2023年の8月にハンバーガーを始めて、翌年6月には専門店を出す、というスピード感で来ました。やりたいことはまだまだたくさんありますし、ハンバーガーだけで今後どこまで行けるのかという興味もあります。
会社としては、意欲がある人が長く働けるよう、仕事内容や条件面を調整していきたいと考えています。パン職人だったスタッフは、うちのお店でパンも料理もデザートもやりたいと入社して、今は五反田店でケータリングを中心に動いてくれています。どんどん昇給し、もう僕の右腕のような存在です。洋風おせちやクッキー缶を販売するのもその一環ですね。
これからも、スタッフがやりたいこと、目指したいことに寄り添いながら、同時に売り上げが立つよう一緒に考えていきたいです。
あの有名店の集客成功事例
【取材先】
住所:東京都港区麻布十番2-13-7プラシーボ麻布1F
Web:Burger Occi 麻布十番
公式X:@BurgerOcci
Instagram:Burger Occi 麻布十番
取材・文/田窪 綾
調理師免許を持つフリーライター。惣菜店やレストランで8年ほど勤務経験あり。食分野を中心に、Webや雑誌で取材やインタビュー記事作成、レシピ提案などを行っている。
編集:はてな編集部