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“人材育成のカリスマ”から繁盛店の経営者へ。「ミナデイン」大久保伸隆さんのアイデアの育て方 【前編】時代に適した店づくりとは

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かつて店長を勤めた居酒屋チェーン「塚田農場」を「バイトが辞めない居酒屋」と言われるまでに成長させ、 “人材育成のカリスマ”としても名をはせた大久保伸隆さん。2018年に「まちに個性を。」というビジョンのもと、株式会社ミナデインを設立しました。ミナデインが運営する店舗は、個性が際立つユニークな店ばかり。独自の経営スタイルで飲食業界の課題に取り組むアイデアの源と、人が集まる店づくりの秘訣を伺いました。

まちづくりを通して、地域や人に持続的な価値を生み出したい

――大久保さんは、居酒屋チェーン「塚田農場」を展開するエー・ピーカンパニーで30歳にして副社長を務め、その後、2018年に独立してミナデインを設立。個人店を中心に手がける経営者となられました。改めて起業の経緯を教えてください。

エー・ピーカンパニーで過ごした11年間は、外食の素晴らしさを感じる一方で、外食の限界を感じた日々でもありました。外食を通じて人を笑顔や元気にするには食事だけではなく、睡眠・運動・医療・コミュニケーション、建物やインフラなどまちとの関わりも欠かせません。さまざまな分野のプロと協業してまちづくりを行うことで、地域にとってより持続的な価値を作り出せるのではないか——。そんな思いで独立を決めました。

ミナデインが目指すのは、「食と人間の価値でより良いまちづくりへ貢献する」こと。地域やまちをより良くすることを目指す人材で、より良い食空間を継続的に提供するためには、まず自分たちの身近にいるお客さま、スタッフ、業者さん、生産者さんを、少しでも幸せにすることが大事だと常に社員に伝えています。実は社名の由来は、ゲームに出てくる、仲間と力を合わせて敵を倒すときの呪文なんです。同じ世界観やビジョンを持つ身近な仲間と力を合わせ、地域社会を盛り上げたいと考えています。

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1983年、千葉県生まれ。大手不動産会社を経て、2007年エー・ピーカンパニーに入社。14年に取締役副社長に。2018年に独立してミナデインを設立。10月に新橋に全国各地の名物メニューを取り寄せて提供する「烏森百薬」、12月に千葉県佐倉市に「里山transit」をオープン後、繁盛店を次々と展開。2024年11月現在、直営13店舗のほか新店舗も進行中。全国各地の絶やすには惜しい絶品グルメ「絶メシ」の保全活動などにも取り組んでいる

そのまちの個性を読み取り、そのまちに適した店をつくる 

――全国の名店料理を提供する“名店のセレクトショップ”「烏森百薬」を創業した後、千葉県佐倉市ユーカリが丘に地域連携型のファミリーレストラン「里山transit」を、またミシュラン星付きのシェフを起用した新橋の立ち飲み居酒屋「STAND BY Mi」など、業態・店名が異なるユニークな店を次々と出店されていますね。

僕なりに”いいまち”を考えた結果、具体的なビジョンとして浮かんだのが「個性のあるまち」というものでした。僕は旅行が趣味なのですが、目的の半分はその土地の食文化を楽しむことです。昨今は地方の風景もどんどん似通ってきていますし、都心も再開発でどこのまちも似たような顔になっていることに寂しさを感じていました。

では、どのようにまちに個性を出していくか。考えた末に見えてきた答えが、「多種多様な業態の出店」でした。ミナデインの事業の柱は、新橋を拠点にした直営飲食店の展開(地域密着)と、地域のまちづくりプロデュース(地域創生)です。さらにコロナ禍で、好きな店が減っていくことに危機感を覚えたことから、全国各地の絶やすには惜しい絶品グルメ(=絶メシ)を守るプロジェクトなど、「食文化の保全」活動も始めました。

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新橋・烏森神社参道の「烏森百薬」。昼はカフェと食堂、夜は居酒屋になる。他店の有力メニューを提供し、食材廃棄の削減や生産性の向上を実現。人気の「太閤 分家 禅閤 鶏の唐揚げ」748円(税込)など、飽きのこない定番料理を提供し、リピーターを獲得している(画像提供:ミナデイン)

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烏森百薬の昼の部「烏森 絶メシ食堂」では、全国各地の絶やすには惜しい絶品グルメ「絶メシ」を提供。写真は千葉県木更津市の「大衆食堂とみ」の「ポークソテーライス」1,500円(税込)(画像提供:ミナデイン)

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ユーカリが丘にある地域連携型ファミリーレストラン「里山transit」。長期的なまちづくりを行う地元デベロッパーと提携し、オープンに至った。地元農家と連携した「持参自消」システムや、廃棄野菜を生かした「里山リサイクル」など、地域に根付いた取り組みも好評(画像提供:ミナデイン)

僕が店づくりの前提としているのは、「30年続く老舗を目指すことができる、ポテンシャルのある場所を選ぶこと」と、「理念の合うデベロッパーと共に進めること」です。理由は、僕たちが手掛けるリアルビジネスは、アップデートによって変化するネットビジネスとは異なり、古いものに価値が出る側面があるからです。それこそ世界中の旧市街が世界遺産になるように、古く価値のあるものを残したいという思いが根底にあります。そのように考えて事業を続けてきた中で、次第に「やりたいこと・やらないこと」の軸が明確になり、よりシンプルにアイデアを出せるようになった気がします。

――多様な業態を生み出すアイデアのつくり方と、それを実現するための秘訣は何でしょうか。

まずはお店の候補となる物件や働く人、地理や歴史といった要素の中から、磨くことで大きく育ちそうな”魅力の種”を見つけることですね。そのポテンシャルを生かして「どう磨けば自分が通いたくなるお店になるか」を考えます。

例えば、ここ「匙かげん」の”魅力の種”は物件です。ここはもともと築古の住宅で、新橋にメニューの試作などを行うテストキッチンを作るつもりで見つけた物件。初めて見た時、レトロな雰囲気を生かして隠れ家のようにしたら面白いと考え、「屋根裏部屋」というキーワードを思いつきました。同時に、社内の課題として、新橋の運営店舗が満席続きでお客さまをお断りせざるを得ない状況が続いていたため、“入れなかった常連さんだけが訪れることができるミナデインのテストキッチン”という体裁で、「屋根裏の台所」をコンセプトにしました。

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裏路地のビル3階にある「匙かげん」。元住宅を改装した店舗には看板もなく、小さな階段を上った先にある隠れ家感も魅力。4階は小規模宴会にも対応するVIPルームがある

一方で、虎ノ門ヒルズの中にある「日常茶飯時」は、ビル店舗のため個性を出しづらく、打診があった当初はお断りしようと思っていたんです。ですが、話をする中で、ビル開発を行った森ビルの創業家が西新橋の米屋だったと知りました。その歴史を生かしてお米とお茶が主役の和食店を作ったら面白そうだという考えに至り、出店を決めました。日本全国から厳選した特級米を、和食としばらず、洋風の要素も取り入れたご飯もお酒も進むおかずを意識してメニューをつくっています。

ミナデインの強みは「人間味」。周りを巻き込み、シナジーを生む

――常連客を生み出すためにどのような工夫をしていますか。

商品でいうと、烏森百薬の「太閤 分家 禅閤 鶏の唐揚げ」のように、飽きられないような”定番”をアップデートしてより美味しくすることを意識しています。腕の良いシェフも多いので、商品企画・開発・味については自信を持っています。

ただし、派手なコンセプトや面白い取り組み、味はどこかの段階で飽きられるもの。常連客をつくるには、味や形態、取り組みだけでなく、それをお客様に届けるための接客・サービス・コミュニケーションも大切になります。僕は「接客が業態を延命させる」と考えていて、小規模店舗だからこそ、お客さまが人につくような形を目指しています。そのため前職でも培ったノウハウを生かして、店舗ごとに話し合いながら人材育成のほか、接客やサービスの戦術を決めています。

また、お客さまからのアイデアもどんどん取り入れています。例えば、お客さまが好きな料理を投票して決める「選挙メニュー」を開催したり、リクエストが書ける黒板を店内に設置するなどしてお客さまを巻き込み、より「身近な店」という印象になるような仕掛けを意識しています。

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社名の由来は、ゲーム「ドラゴンクエスト」に出てくる、仲間と力を合わせて敵を倒すときの呪文。同じ世界観やビジョンを持つ仲間と協業し、より大きな価値を出していきたいとの考えから名付けた。

――改めて、繁盛店を生み出すミナデインの強みはどこにあると考えますか。

僕はミナデインの売り物を「人間味」と定義しているのですが、それが“強み”であり、“尖り(とがり)”だと思っています。だからこそ店や内装、商品、接客に至るまで人間味に溢れていることを大事にしているんです。場合によってはデジタルツールも活用しますが、主役はあくまで人間。「人が足りないからモバイルオーダーで」と考えるのではなく、「お客さまを満足させるためのモバイルオーダー」であることが大事だと考えています。今後も人間味あふれる店をたくさんつくることで、個性的なまちづくりをプロデュースしていきたいですね。

取材先紹介

株式会社ミナデイン
匙かげん

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取材・文渡辺満樹子
写真野口岳彦
企画編集株式会社都恋堂

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