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広島の老舗ホラー喫茶「喫茶 伴天連」で恐怖体験をしてみたら、意外な結果が待っていた

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東広島市にある「喫茶 伴天連(ばてれん)」は、“ホラー喫茶”として知る人ぞ知る珍スポット。「一度は行くべき有名店!」「楽しいデートスポット」「とにかく不気味……」「喫茶というよりお化け屋敷」と、いろいろな評判がありますが、何と創業60年という老舗中の老舗。実際はどんな店で、何が魅力なのでしょう?地元在住ながらもいまだに足を踏み入れたことのない筆者が、おそるおそる足を運んでみました。

たどり着くまでも、着いてからも、ドキドキの連続

「喫茶 伴天連」があるのは山陽新幹線の東広島駅から車で約10分のところ。駅前の賑わいを過ぎ、ゴルフ場を横に見ながら道を進むと、偶然ではあるものの“廃ホテル”もあり、徐々に“ホラー気分”が盛り上がってきます。看板を目印に広い駐車場に到着。車を停めて、お店の入り口を探します。しかし、エントランスにはガイコツのオブジェ、大きな灯籠、石仏が並べられていて、「三途(さんず)の川」なんてものもあり、入店前からすでにもう怖い……。

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石仏、木々の奥に、怪しげに立つ店が今日の訪問先
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石の仏像に見守られながら「三途の川」を渡って行きます。我々は無事に帰れるのでしょうか……?

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得体の知れない太い骨が扉の取っ手に。これを引っ張らないと入れないなんて早くも第一関門

ようやく店内に続く扉を発見。勇気を出して取っ手を引くと、店内は真っ暗!何も見えず、恐怖心が高まります。不安定な足元にちょっとしたパニックになっていると、空間からは想像できない優しい人の声が奥から聞こえます。

「いらっしゃい!」

明るい方へ恐る恐る進んでいくと、店主らしき人が迎え入れてくれます。

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喫茶 伴天連の二代目店主、藤田真基さん

伴天連の歴史は、繁華街のバーから始まった

暗い店内に目が慣れてくると、ディスプレーされた何もかもが気になって仕方がありません。多種多様なランプが照らすものは、何かの骨、何かのガイコツ、何かのお面、何かの足、何かの仏像、何かの毛……。BGMもなんだか怖い。まるでどこかの秘密基地みたい。

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不気味なアイテムが目に飛び込んでくる

しかし、藤田さんの「ようこそ。うちは目指せコメダ、打倒スタバでやってますから(笑)」という声掛けに心をつかまれ、トークに引き込まれていきます。

そもそも「喫茶 伴天連」の原点は、広島県きっての繁華街、広島市中区流川で先代であるご両親が営んでいたバーだそう。 

「父がバーテンダーでカクテルを出していましてね。当時、お酒の種類が少なかったのもあって、マムシの焼酎漬けをカクテルにアレンジして出すと米軍人に受けた、なんていうこともあったそうです。その後、私が誕生すると、家族で環境のよいところへ引っ越そうということになり、今の場所へ移ったんですよ」

繁華街から自然豊かな東広島市へ。それは当時の藤田さんの健康を願う、ご両親の愛だったようです。

驚きの仕掛けや愉快なトークが、店主とお客の距離を縮める

広島市からの移転後も以前と同様にバーとして営業を開始しました。山が近いこともあり、先代はハブや青大将、シマヘビなどを捕まえてきては、ネットにヘビを入れて店内にぶら下げたり、カウンターからヘビをにょろっと出したりして、訪れるお客を驚かしていたのだそう。「暑いんだけどクーラーは利いてないの?」なんてことを口にしようものなら、先代の奥さまがお客の首にヘビをひょいと巻き付けて背筋を寒くさせたり、いたずらで店内の照明をいきなり切って「ヘビが逃げた!」といって騒ぎを起こし、みんなが床から足を上げたり……なんていうエピソードも。そんなやりとりは、お客との距離感を一気に縮めたようです。

その後、飲酒運転の取り締まりが厳しくなったことからバー営業をメインに続けていくのをやめ、「喫茶 伴天連」が誕生します。

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かつてバーだった名残を感じさせる、存在感たっぷりの横長のカウンター席

先代の遺言を守り、店を継ぐことを決意

学校を卒業した藤田さんは飲食業などに従事。その間に先代が営む「喫茶 伴天連」は、メディアで紹介されたり口コミで広まったり、全国的な有名店になりました。

やがて、先代のご夫婦も年を重ね、看板娘として愛された奥さまが2005年に他界。先代も調子を崩し、店はしばらく休業状態になっていました。先代が他界する2週間ほど前に、「店はどうするのか」「つぶすな」という会話をしたという藤田さん。当時の仕事であった内装業を辞め、思い切って店を継ぐことにしたのは、2015年の11月のことでした。

「その言葉のあとで親父がすぐに亡くなったから、なんだか遺言みたいでね。開き直ってやってみようか、ってね。しばらく休業していたから、再オープンから1年くらいは、経営状態は厳しかったですよ」

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次々やってくるお客に声を掛けつつ、ドリンクを提供する手は止まる様子を見せない

エピソード満載のインテリアと驚きの仕掛けが、訪れる人を楽しませる

先代は骨董好きで、いつしか骨董好きの仲間もよく来店するようになっていました。今でも先代が集めた骨董のほか、当時の仲間が持ってきた珍品などが店内のあちこちにディスプレーされています。

「あれは馬の頭蓋骨、それはのれんに見えるけれど実は鹿の皮、こっちはバッファローの頭蓋骨。トラの頭蓋骨に、黒水牛の頭蓋骨。ロウソク立ては牛の大腿骨を加工して、親父がつくったんです。中には博物館に所蔵するレベルのものもありますよ」

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江戸時代にキリシタンを摘発するために使用された踏み絵が飾られている

先代から店を引き継いでからはインテリアの一部を入れ替え、新しい「珍品」をそろえているという藤田さんですが、驚いたのはインテリアだけではありません。店内には、人を驚かせるためのさまざまな仕掛けが仕込まれていて、“その時”は予期せぬタイミングでやってきます。突然の恐怖体験に悲鳴を上げる私たちを見て、藤田さんはとても満足そう……。

先代から変わらないもので常連客を懐かしがらせ、新しい仕掛けの数々で新しい客を怖がらせる——。新旧の老若男女を満足させるエンターテインメントが「喫茶 伴天連」には詰まっています。

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ここには書けないアイテムもたくさん。お店での恐怖体験とともに、ぜひその目で確認を

さりげない話術と気遣いに魅せられ、ついつい長居

話をしている間にも次々とお客がやってきます。先代の頃から40年以上の常連だという方は、「いつも夜に来て愚痴や悩みを聞いてもらい、すっきりしたらそのままバイクで走りに行ったもんよ。みんなマスターとママさんが好きだった」と回顧。オーダーするのはいつもコーヒーで、今は漫才の掛け合いのように藤田さんとの会話を楽しみながら、ゆっくり過ごすのが恒例だそうです。

続いて「わっ!暗い!」と言いながら、若いカップルが来店。「僕、彼女にいいところを見せたいんで、強い刺激は勘弁してくださいよ」と懇願する男性は、口コミでこの店を知って広島市内からやってきたそう。

「ええ〜?ちょっとくらいダサイところを見られただけで壊れちゃう関係なの?」などとちゃかしながらも、その後はそっと見守る藤田さん。帰り際には「ベストポジションで写真を撮ってあげる」とぱちり。大喜びで店を後にする笑顔が印象的でした。

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初めて訪問したという二人は店内のインテリアに興味深々。自然と会話が生まれる

次にやってきたのは、地元の大学生2人組。ココアやサンドイッチをオーダーします。

「久しぶり!就職決まった?」
「実は明日が本命の面接なんすよ」
「へえ、頑張って!」

以前来店したであろう学生が、就職活動をしていたこともきちんとインプット。合格したらきっと、報告に来てくれるでしょう。

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カウンター席が埋まりテーブル席にいた大学生たちも、あとから藤田さんが「こっち来る?」と声掛けするとすぐさまカウンター席へ

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大学生たちがオーダーしていたサンドイッチ(税込600円)。温かい焼き卵入りでしみじみおいしい

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コーヒー、ココアともに税込500円。先代の頃はココアを「う○この煮汁」、コーヒーを「ゴ○ブリの絞り汁」、コーヒー添える角砂糖を「青酸カリ」と呼んでいたそう

「喜んでほしい、楽しんでほしい」という気持ちと平等な接客がリピーターを生む

お世辞にも立地が良いとはいえないこの場所で、県外はもちろん海外からもお客がやってくる。さらには先代からの常連客も。60年もの長きにわたり、お客の心をつかんでいるのはなぜなのでしょう。

「両親の代から広告宣伝は一切していませんし、そもそも最初は看板もありませんでしたよ。広告にお金を使うくらいなら内装やグラスに費やして、お客さまに喜んでもらうほうがいい、という考え方です。もうけようとかおしゃれにしようなんて、考えたことはないです。この場所までコーヒーを飲みに来るだけでも、ガソリン代や高速代がかかるのに、“ありがとう”だけで済ませてはいけないのではないかと思うんですよね。だから、きゃー!わー!でもいい、楽しんで帰ってもらいたいんですよ」

さらには、この場所を愛していることも伝わってきます。商売する場所をリスペクトする気持ちも、大切にされているようです。

「ここで好きなことをしながら生活ができて幸せです。山の中だからといって、何もない、不便などといったマイナスではなく、むしろプラスなことが多いんですよ。何もないようで何でもある。地縛霊、浮遊霊もね」

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奥の部屋に置いてある「古文書」や「遺言書」はお客のコメントが書かれた来店ノート。伴天連が長きに渡っていかに愛されてきたかを垣間見ることができる

会話を大切にする「昭和の良さ」を残し、より良い形で三代目に継承したい

周囲との関係性が希薄になりがちな昨今、会話が活発だった昭和の良さを改めて感じることが多いそう。

「昭和の時代は、親について買い物に行けば店主との“今日は何がいる?これサービスね”という会話がありましたし、学校を休んだクラスメートがいれば給食のパンを持って行っては“大丈夫?”ってコミュニケーションを取っていました。周囲とコミュニケーションを取るきっかけがたくさんあったんですよ。会話は人を元気にしてくれるものだと思い、SNSが当たり前の今だからこそ、その素晴らしさをとても大切にしているんです」

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「接客をしていると、心が疲れている人も多いようにも感じますね」とぽつり。楽しい話題を振りまきながら、実は誰よりも人を見ていて、心の内にまで寄り添っているかのよう

続けて「私もいい年になりましたからね、これからは息子に継いでもらうことを考えないといけない。この店だけで食べていけるように基盤を整えて渡したいね」と先を見据えます。

この店を継承していくということは、昔を懐かしみ、心のよりどころとして通う常連客に加え、次の世代で支持されるために若い世代に対しても思いを巡らせなければなりません。軽快なトークの奥には、お客はもちろん、息子さんへの思いがにじみ出ているようです。

誰にでも平等に接しつつ、会話を生み、心の通った営業を続けていく——。ただの“ホラー喫茶”ではない、心温まる藤田さん流の“愛”がそこにはありました。

取材先紹介

喫茶 伴天連


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取材・文門田聖子(ぶるぼん企画室)

広告代理店勤務を経て、広島&東京を拠点に、ライター&フォトグラファーとして活動。 小説、写真の受賞歴あり。FP技能士2級。ただいま日本百名山挑戦中!

写真堀行丈治(ぶるぼん企画室)

広島県を拠点に活動するフォトグラファー。Webメディアや新聞系メディアを中心に、観光やグルメコンテンツ、人物写真などの撮影を行なっている。

企画編集株式会社都恋堂

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